あなたは家族や友人など、大切な人を亡くした事はありますか?
「ある。」と答えた方。
本当に辛い経験をされましたね。
身体や心に影響が出ていませんか?
私は、半年前(2021年7月)に夫を亡くしました。
夫を亡くしてすぐの頃は、仕事の合間に役や銀行の手続きもあり、忙しくしていました。
その手続きが終わった頃、身体や頭が鉛のように重くなり、仕事にも行けず、日常生活にも支障が出てきました。
「このままではダメだ。」と、臨床心理士さんのカウンセリングを受け始めました。
1対1で約60分、しっかり話を聞いてもらったことで、心がいくらか軽くなったように感じました。
でも、カウンセリングは月に1回です。
「もっと早く元気になりたい。」と思い、1冊の本を手に取りました。
この本は、日本グリーフ専門士協会の井出敏郎さんが書いています。
グリーフサロンに参加している気持ちで読み進められるよう、対話形式で書かれています。
グッときたところベスト3
1位: 金継ぎ
陶磁器が割れたら、使い物にならないので捨てられてしまいます。
でも、「金継ぎ」という技法を使えば、陶磁器はよみがえるのです。
金継ぎは、割れたところを漆でつないで、金粉で装飾を施します。
傷がないことを良しとするのでもなく、傷を隠すのでもなく、その傷を愛でる姿にグリーフケアとの深い共通点を感じました。
私達も嫌なことやつらいという不快な気持ちを無視せず、大切にできたら、その対極にある自分の本当の思いに気づくことができます。
これからは、傷がなかったことにしない。無理に隠そうとしたり、なくそうとしたりするのではなく、自分の一部として大切に愛でることで、本当の意味でその人らしく生きることが出来るのではないでしょうか。
大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと 著:井出敏郎
私の心も、夫が亡くなったことでバラバラに割れてしまいました。
割れた心を前に、どうしたらいいか立ち尽くしています。
頭の中は「割れる前の心に戻りたい。」
つまり、「夫に帰ってきてほしい。」という叶わぬ願いでいっぱいです。
半年経っても、まだ夫の死を受け入れられないのです。
もうしばらく時間が経ったら、夫の死を受け入れ、自分の一部として大切に愛でることが出来るのでしょうか。
2位: グリーフスパイラル
皆さんが、自分の状態を知るための1つの概念として「グリーフスパイラル」というものがあります。(上図参照)
喪失のあと、混乱・否認・怒りや罪悪感・抑うつ・あきらめ・転換を経て再生へと向かいます。
まず、大切にしたいのが、中央にある「哀しみ」です。
哀しみは喪失体験における「本質」の部分です。
そして周辺のものは「現象」です。
大切な人を亡くしたときは、この本質と現象というものの2つを抱えながら生きていると考えると、自分のことが少しづつ分かってきます。
大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと 著:井出敏郎
私は看護師なので、学生の時に、キューブラー・ロス博士の「死の受容の5段階説」を学びました。
死を受け入れるには「否認・怒り・取引・抑うつ・受容」の5段階を経るというものです。
ただ、この「死の受容の5段階説」は、亡くなっていくご本人の心理を表しています。
本著のグリーフスパイラルは、亡くなった方の周りの方の心理を表します。
両方に共通しているのは、現象は順番通りに現れるとは限らないこと。
行ったり来たり、らせんを描くように何度も同じところを通ったりして、徐々に再生や受容へ向かうことです。
私が未だに「夫に帰ってきてほしい。」と思うのは、「否認」の段階なんでしょうね。
皆さんはどの段階にいますか?
3位:心の風船
私たちの心をガス風船だと考えると、喪失体験をきっかけに湧き出たいろいろな感情のガスで、心の風船はいっぱいいっぱいになっていると思います。
いつ破裂するかもわからない。
かなり危うい状況の人もいるかもしれません。
自然にガス抜きができたらいいのですが、それができないまま、中にあるものが膨れ上がってきたらどうなるでしょうか?
大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと 著:井出敏郎
私は以前読んだ本の勧めで、臨床心理士のカウンセリングを受けています。
臨床心理士は、話を聞き、アドバイスをする専門家なので、思ったことを気兼ねなく話せるのがありがたいです。
カウンセリングの際、「夫にあんな事言わなければよかった。こうしてあげればよかった。」と言うと、
「それは客観的にみても、あなたはよく頑張りましたよ。最善を尽くしましたよ。」と言ってもらえました。
専門家にそう言ってもらえたことで、心が安らぎました。
母や友人に頼めば、話を聞いてくれたと思いますが、「こんな事まで話していいのかな。」という戸惑いもあったので、私はカウンセリングを受けてよかったと思っています。
どんな人にオススメなのか
家族や友人など、大切な人を亡くした方にオススメです。
本著は、グリーフサロンに5人の方が参加している形式で書かれています。
年齢や性別の違う人の意見も聞けるので、グリーフケアについて学びたい人にもオススメです。
まとめ
食料品などの買い物に出ると、高齢のご夫婦が一緒に歩いている所を見かけることがあります。
そんな時は、「私もあんなご夫婦になりたかったな。」と思ってしまいます。
ちょっと心が落ち着いてきたな、と思っても些細なことでうろたえてしまうのです。
でも、この本を読んでからは、スパイラルを何周もして、心の金継ぎをしていけば、私らしく生きていけるようになるのかなと思うようになりました。
目次・著者のプロフィール・本の詳細
目次
第1章 哀しみがあなたの感情にもたらすこと
ワーク: 不安な気持ちをおちつける(バタフライハグ)
第2章 哀しみがあなたの身体にもたらすこと
ワーク: 失くしたものを確認する(ロスライン)
第3章 哀しみがあなたの周囲にもたらすこと
ワーク :鏡の中の自分を抱きしめる(ミラーワーク)
第4章 哀しみがあなたの精神にもたらすこと
ワーク:あなたの想いをあの人へ届ける(グリーフレター)
第5章 哀しみがあなたの未来にもたらすこと
ワーク:あなたが人生で手に入れたもの(ゲインライン)
エピローグ
著書のプロフィール
著者:井出敏郎
公認心理師/一般社団法人日本グリーフ専門士協会代表理事。
アライアント国際大学カリフォルニア臨床心理大学(日本校)にて、米国臨床心理学修士号(MA)習得。
日本グリーフ&ビリーブメント学会、日本個人心理学会(アドラー心理学)所属。
幼少期の喪失体験をきっかけに、日本、アメリカ、ドイツの複数の団体で、グリーフケア、カウンセリング、セラピー、コーチングを学ぶ。
精神科クリニックにて、グリーフケア・プログラムを担当。
2015年、一般社団法人日本グリーフ専門士協会を立ち上げ、養成した悲嘆支援者(グリーフ専門士・ペットロス専門士)は600人を超え、その輪は日本以外にもアメリカ、カナダ、ドイツ、オーストラリア、インドネシアに広がっている。
看護師、介護士、ケアマネジャー、地方自治体や葬祭業、大学を中心に講演や研修を行う。オンラインによるカウンセリングも続けている。
著書に「金融機関行職員のためのグリーフケアを意識した相続の手続きと上手な接遇方法」(近代セールス社)がある。
本の詳細
2020年10月23日 初版第1刷発行
2021年8月18日 初版第3刷発行
著者:井出敏郎
発行所:株式会社 自由国民社